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すっと立つ背中に、違和感を覚える。 「…土方さん?」 彼は部屋を出て、縁側から庭を眺め煙草を吹す。僕はその背の隣に立つ。 「…お前さ、俺が死んだら墓に何供える?」 とても愉快な質問だった 僕は笑っておどけて疾走する心臓を抑え言う。 「マヨネーズとか?」 それを聞くと、土方さんはくっとおかしそうに笑った後妙に哀愁染みた顔で僕を見た。 「安心したよ」 そして、僕に煙草を残し、彼は死にに行った。 [墓前へ](土方十四郎) 俺さあ、お前が突然居なくなってマジびっくりしたんだよ。だからすげー探し回ったんだけど中々見付かんなくてさぁ。 そしたらある奴がお前が居る場所教えてくれてな、俺猛ダッシュで行った訳。 そして 着いた所が どうしてだろうな お前の名前が刻まれた墓だったんだ。 [ごめんなさい](坂田銀時) 「ごめんね、雪菜ちゃんの事喰っちゃった」 そう言って男は、指に付いた血をぺろりと舐めた。 「美味しそうだなあって見てた ら、気付いたら喰った後だった。すげえ美味しかったよ。流石可愛い可愛い雪菜ちゃんだなあ」 「…貴様…!自分のした事が解ってるのか…!」 俺はどうしても刀を引き抜く事が出来なかった 妹を喰われたのに 妹を殺されたのに どうしても ただ歯が折れそうな位強く歯軋りをしながら睨んで居た こんな怒りは、かつて体験した事の無い程だと言うのに。 そんな不甲斐無い俺を見て、男は笑った。 「解ってるよ?兄さん。」 [喰う男](飛影)(飛影とは父親が同じだけの腹違い兄弟 だから雪菜とは他人) 「やばい、遅刻だ…!」 ああ、なんでよりによって朝から会議がある日に寝坊!何故鳴らない目覚まし時計! 「編集長の顔が目に浮かぶ…」 身支度も適当に猛ダッシュでアパートの玄関のビリケンさんもどきを吹っ飛ばす俺、背筋がぞっとする。ていうか台詞まできっと一字一句違わず出て来る。 『坂上。わざわざ会議に遅刻とは随分余裕じゃないか?何か得策でもあるのか?おーっと因みに今日に限って目覚まし時計が鳴らなかったんですとかいう言い訳は通用しないから覚悟しておけー?』 「…!っ、はははは走れば間に合う!うん!多分!ていうか間に合ってくれ…!」 俺は、自分の首がはね飛ばされる所まで想像してそれを振り切る様に陸上走りでダッシュした。 悪夢もついでに吹っ飛んでくれます様にと 「 坂上 」 「っ!?」 前につんのめりそうになったのはその声に驚いたから。真っ白になった頭で慌てて後ろを振り返る。 「 あ、」 ――死んだ筈の人間が見えた気がした。 ――そうだ。今日見た夢は かつて親友と呼び合った男の夢だった 目覚し時計は本当はちゃんと鳴って居た。俺が夢に飲み込まれて居る間に [ナイトメア] (坂上恭太郎) 「私、神田の事失いたくないなあ」 任務への支度途中、科学班の彼女はぽつりと言った。俺が振り向くと、笑ってみせる。白衣が揺れた。 「ごめん。でもね、そう言って置いたら、最期の瞬間に私の事想ってくれるんじゃないかなあって思ったの。」 俺は刀を置いて彼女を抱き締める。 ――もう二度と逢えない温もりにしがみ付く様に。 [悟られ死](神田ユウ) 初めて彼と出会ったのは、お母さんを本当に失って、新しい家族が出来て、新しい学校に行って席に座った時の事だ。夏の半ばで、担任は『転校生』の私を紹介する。黒板に名前を書く。「葛木亜莉子さん。仲良く。席そこね」担任は口数の少ない人だった。 席に辿り着くまでの間に何人かの生徒に声を掛けられて適当に相槌を打ってようやく自分の席に着く。その隣りの席に座っていたのが彼だった。 「こんちには」 綺麗な声だった。そして緑の黒板に書かれた私の名前をゆっくりなぞって 「葛木――アリス?素敵な名前だね」 私は否定しなかった。 夏の半ばの事だった。 「不思議の国には、行った事あるの?」 彼は楽しそうに聞いた。 [きっとワンダーランド](葛木亜莉子) 「俺は幸せなんて要らない」 「…」 「あいつが在る事、それで充分、だ」 「…っ、でも、あなたは彼女さんの事愛してるんでしょ!?在る事が全てだなんておかしいよ!もし彼女が他の人を好きになっ…」 その時の彼の眼光は私を射抜いた。愚問だ、とでも言う様な、本気で馬鹿な話してんじゃねえよって声が聞こえた気がした。 「…あいつは誰にも渡さねえよ」 その瞳の熱さに強さにぞっとする。 「神志名の実の娘だって事も、知った事じゃない」 [鎮魂歌](黒崎) 塾の帰り道で懐かしい猫に出会った。――チェシャ猫が、食べてもおいしくないよ。なんて言ったあの灰色の子猫。 「こんな所で何してるの?」 抱き上げて顎を撫でてやると喉を鳴らす、私はその瞳を除き込んだ。 「綺麗…」 はっとする位絶妙なオッド・アイ。私は暫くそれに見とれていた。 「何やってんすか、アリス」 「え?」 猫を抱き抱えたまま振り返ると、怒った様にこちらを睨む歪みの国の住人が居た。 慌てて弁解しようとも、空は黄昏を消して星を散らしていた。 そんなに、長く見とれてたのかな。 ひとり首を傾げると、私の隣に立った彼がまた怒った様な声を出した。 「遅いからチェシャが動きません。早く帰って下さい。こんな夜まで、ジュケンセイは風邪引いちゃ駄目なんです」 「なにそれ…」 あはは、と私は少し笑った。きっと誰かの会話を聞いたのだろう。片言の照れ隠しの心配が嬉しかった。 「私はもうジュケンセイじゃないのよ?」 「…?じゃあ、アリスは風邪引いちゃ駄目なんです。アリスは」 「アリスの事だけ考えてれば良い、でしょ?」 猫を下ろしてやってばいばい、と手を振る。にゃあ、とひと鳴きして猫は闇に消えた。 くるっと彼を振り返るととても嬉しそうに笑っていた。 「そうです。僕らのアリス。」 差し出された彼の手を取って私達は家路に付く。 アリスは、アリスの事だけ考えてれば良いんです。 それは彼の口癖。何十回と言い聞かされた優しさ。 私はくすりと笑って、彼の手を握り直した。 [僕らのアリス] (アリス) あなたは笑って居た。 びっくりした。 わたしがとてつもなく不幸にしたから――泣いていると思ってたよ。 でももう、笑えるんだね。 わたしが居なくても、わたしが居ないから。 ありがとう。 どうかあなたがその笑顔を忘れませんよう―― [しあわせ] 以上、終了。 (070219) |